いなか医師の勉強ノート

一人前の家庭医をめざして

戦争と家庭医療

Borkan JM. Family Medicine in Times of War. The Annals of Family Medicine. 2024 Nov 1;22(6):539–42.

www.annfammed.org

1. 戦争と家庭医療の関係

  • 戦争や紛争は人類史において普遍的な現象であり、多くの地域で家庭医療が医療システムの中核を担っている。
  • 家庭医は戦時中、より広範な役割を担うとともに、個人や地域社会の精神的・身体的苦痛を直接目撃する立場にある。
  • 本論文は、イスラエルハマス戦争を主な事例として、家庭医が戦争から得られる教訓を考察する。

2. 戦争に巻き込まれる医師たち

  • 戦争の形態の変化に伴い、家庭医の役割も軍事的負傷者の治療から地域全体の医療ケアへと拡大している。
  • 例えば、ウクライナの家庭医は避難民のケア、精神的ストレスを抱える患者への対応、心理士との連携、負傷者の治療など、包括的な役割を担っている。
  • しかし、家庭医療レジデンシーは戦時対応の訓練が十分ではない。

3. 家庭医療の哲学的基盤

  • 家庭医療は生物・心理・社会モデルに基づき、戦時下でも心理的・社会的要因を重視する。
  • WHOのアルマ・アタ宣言(1978年)は健康を基本的人権として定義し、戦時における多部門連携の必要性を強調している。
  • 世界家庭医機構(WONCA)も戦争反対の声明を発表し、患者の健康と基本的人権を守る家庭医の重要性を訴えている。

4. 家庭医の戦争対応策

1. コミュニケーションの維持:紛争両当事者の家庭医と連携し、正確で迅速な情報共有を行う。

2. 傾聴と承認:患者や医療従事者の体験に耳を傾け、安心感の提供と和解への糸口を見出す。

3. 物的支援:医療物資と資金の提供により、紛争地域の医療チームを支援する。

4. 人的支援:避難民や負傷者のケアにおいて、倫理的で持続可能な形で医療チームを支援する。

5. 戦時対応の訓練:トラウマケア、急性期医療、精神健康ケアを家庭医療の研修と継続教育に組み込む。

6. 研究活動:戦争がもたらす健康問題の解決に向けた調査を実施し、短期・長期の課題に取り組む。

7. 社会的行動:戦争被害者支援と紛争の根本的解決に向けた政策提言や社会活動を行う。

8. 倫理的発言:医療倫理の擁護と戦時下での人道犯罪防止のため、積極的に発言する。

5. 結論と提言

  • 家庭医は戦争や紛争地域で医療の要として活動を継続し、教育・研究・共同プロジェクトを通じてその役割を発展させるべきである。
  • 患者と同僚の尊厳を守りながら、より良い未来の実現に向けて努力を重ねることが重要である。

謝辞

紛争地で献身的に働く家庭医たちの勇気ある姿勢に感謝の意を表する。

 

 

読後感想

  • 市中で働くふつうの医師として、現代日本で「戦争」が身近に迫っていることを想像するのは難しい。ましてやそれに備えて準備するなんてなおさらだ。

  • ただし、起きないとは言い切れない。そのために、我々が普段からできることはあるだろうか?

  • 極限環境における医療といえば**「災害医療」**のほうが身近だろうか(※1,※2)

    • 急性期ではCSCATTTを合言葉に、自身の医療機関の通常診療回復へ注力しつつ
      • 被災地域の平時の医療状況(救急医療体制、患者の搬送ルールなど)の情報提供と関係性の構築
      • 被災地域の医療施設の被害状況の把握と情報提供
      • 医療支援チームの受け入れと連携の構築
    • 亜急性期では、一般医は震災関連死を防ぐことを目標に、
      • 「短期間の途絶も避けるべき薬剤」*の確保・被災者に届く仕組みづくり
      • 新規発症への予防/介入(心血管疾患、呼吸器疾患、高齢者肺炎)(心理的応急処置サイコロジカル・ファーストエイド)
  • ウクライナでのプライマリヘルスケアでは、2013年以降に下記の改革が行われているようだ(※3)

    • 2018年に電子医療システム「eHealth」を導入し、診療記録の完全デジタル化を達成。
    • 患者が家庭医を自由に選択できるようになり、医師との契約「宣言書」を作成し連携するようになった。
    • しかしロシアの侵攻により、多くの診療所が被害を受け、600万人以上の国内避難民が家庭医との連携が困難となった。
    • 結果、テレメディスン(遠隔医療)がより普及し、オンライン診療がより整備されている様子。

 

以上と本文を照らし合わせて考えてみると、災害医療を準備することが戦争時の準備につながるのかもしれない。

 

災害医療と戦時医療の違いはなんだろうか…使える資源とか、支援が受けられるかどうかとか、長期化するかどうかとか? 私自身、いずれの現場でも当事者にもなったことがまだ無いので、いかんせん解像度が低い。

 

しかし仮に避けられない状況だとしても、反戦の志を常に持っておくことは、命を預かる医師としては大事なことだろう。日野原重明先生は自身の送別会で、医師として最も大事なことは「戦争をさせないことです」と語っていたようだ(※4)。全面的に同意する。

 

参考資料

※1.阿南 英明, 災害医療と内科~内科医に期待される災害時の知識と活動~, 日本内科学会雑誌, 2015, 104 巻, 6 号, p. 1189-1196, https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/6/104_1189/_article/-char/ja,

※2.山上実紀, 原田奈穂子. サイプロジェクトの経験より─ 災害医療のために家庭医・総合医は何を備えておくべきか? 日本プライマリ・ケア連合学会誌, 2015. https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/38/Supplement/38_132/_pdf/-char/ja

※3.テチアーナ ハラシェンコ, 平和な時代から戦争へ, ウクライナのプライマリーヘルスケアシステムと教育, 医学教育, 2022, 53 巻, 6 号, p. 516-520, https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/53/6/53_516/_article/-char/ja

※4.琉球新報. 非戦「医師だからこそ」…徳田安春氏が明かす日野原重明さんの言葉 那覇憲法講演へ. 2021年05月01日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1314305.html