Uncertainty_家庭医は臨床における曖昧さに対する耐性が高い:全国横断研究
Fujikawa H, Aoki T, Ando T, Haruta J. Family physicians have greater ambiguity tolerance in the clinical context: A nationwide cross-sectional study. Journal of General and Family Medicine. 28 October 2024.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.747?af=R
背景
- 臨床現場における曖昧さへの耐性は医療専門職として重要な能力である。
- 特に家庭医(FP)は様々な問題を抱えた患者、未分化な健康問題を扱う、検査へのアクセスが限られた場所で働くため、他の専門分野よりも曖昧な状況に遭遇しやすく、曖昧さへの耐性が高いと考えられている。
- これまでの専門性と曖昧さ耐性に関する先行研究のほとんどは、医学部の学部生を対象としている。
- 診療科別の曖昧さ耐性に関する研究は少ない。特に家庭医(FP)と非家庭医(non-FP)の違いについて検討が不足している。
- 本研究は、日本全国の家庭医と非家庭医を対象に、特にFPとnon-FPに焦点を当て、診療科と曖昧さ耐性の関連性を調査した。
方法
- 全国横断調査を実施。
- 対象
- FP※:日本の14の家庭医学研修プログラムの責任者に依頼し、プログラム内で質問票を配布した(家庭医が1%未満と少ないため)
- non-FP:インターネット調査会社に登録された非家庭医を無作為に抽出した。
- 使用尺度:医学生・医師向けの「曖昧さ耐性尺度(J-TAMSAD)※」の日本語版を使用し、曖昧さ耐性を評価。
- データ収集:オンライン自記式匿名アンケート
- データ解析:多変量線形回帰分析を用い、性別や臨床経験年数などの交絡因子を調整した。
※本研究では、FPを "日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)認定プライマリ・ケア医、JPCA認定家庭医、総合診療専門医、またはこれらの専門研修医 "と定義した。
※曖昧さ耐性尺度TAMSADの日本語訳(J-TAMSAD)の開発と妥当性の論文はこちら
Fujikawa, H., Son, D., Hayashi, M. et al. Translation, adaptation, and validation of the Tolerance of Ambiguity in Medical Students and Doctors (TAMSAD) scale for use in Japan. BMC Med Educ 23, 405 (2023). https://doi.org/10.1186/s12909-023-04391-1

因子分析の結果、J-TAMSADは5因子の構造が示された
- 第1因子(F1) 6項目「医療現場における複雑で困難で曖昧な状況が好き」
- 第2因子(F2) 3項目「医療という謎、神秘的なものが好き」
- 第3因子(F3) 2項目「一つの解答のない医療現場に対する寛容さ」
- 第4因子(F4) 3項目「医療における白か黒かわからないものに対する寛容さ」
- 第5因子(F5) 5項目「医療現場における論争的な状況に対する寛容さ」
結果
- 調査に回答した医師は計388名(家庭医178名、非家庭医210名)。
- 家庭医は、内科医・小児科医、外科医、その他の診療科の医師に比べ、曖昧さ耐性が高かった(表2)。
- 性別と卒後年数で調整した後、非FPはFPよりも曖昧さへの耐性が有意に低かった
- 内科/小児科:調整平均差-8.17、95%CI-11.06~-5.27
- 外科 :調整平均差-8.77、95%CI-11.16~-6.38
- その他 :調整平均差-8.96、95%CI-11.82~-6.10)
- 第2因子「医学という謎が好き」以外のすべての次元で、非医師は曖昧さに対する許容度が低かった。

考察
- 家庭医は診療上の曖昧さへの耐性が高く、この能力が医療の複雑化に対応するために役立つ可能性がある。
- 家庭医が曖昧さへの耐性が高いのはなぜか?の仮説
- 曖昧さへの耐性が高い医学生・研修医が、家庭医療を選択する可能性がある。
- 家庭医療研修を通じて、曖昧さへの耐性を身に着けていっている
- 日本の複雑な医療環境(フリーアクセス、高齢化・複数疾患を持つ患者の増加)も耐性を高めている可能性がある。
- 教育的示唆:非家庭医にも曖昧さへの耐性を向上させる教育が必要とされる。
- 限界
- 横断研究のため、因果関係の決定は困難
- 先行研究を参考に共変数を決定したが、未知の交絡因子が存在する可能性がある
- 回答率:曖昧さへの許容度が低い医師は、本調査に回答する可能性が低いかもしれない。
- 情報バイアス:匿名の調査デザインなどできる限りバイアス回避に努めた。
- 本研究は統計学的有意性を示したが、得点差の臨床的・教育的関連性は依然として不明である。 今後、J-TAMSAD尺度の解釈可能性を検討する研究が進めば、本研究の意義が明らかになるかもしれない。
読後感想
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「家庭医は曖昧さへの耐性が高い」フレーズは以前から結構聞いたことがあるため、興味深く読ませてもらった。
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J-TAMSADの因子分析を通して、曖昧さといってもいくつものフェーズに分けられることも少し驚いた。
- F1「医療現場における複雑で困難で曖昧な状況が好き」 →共感が難しい…
- F2「医療という謎、神秘的なものが好き」 →これはわかる、科学者目線だ
- F3「一つの解答のない医療現場に対する寛容さ」→これもわりと分かる。真実はいつも一つか、真実は人の数だけあるのかという感じ。
- F4「医療における白か黒かわからないものに対する寛容さ」 →少し難しいが、家庭医療研修を超えて何とかいけそう。
- F5「医療現場における論争的な状況に対する寛容さ」 →なお難しい
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表2のF1〜5を眺めてみると、F2は確かにあんまり差がない。F4は圧倒的に家庭医が強い。

表2.参加者の特徴抜粋 -
家庭医はプライマリ・ケアとして、またあらゆる困りごとを受け入れるものとして、「不確実で未分化な健康問題」にどうしても直面せざるを得ない。故に、家庭医療研修でも、レポート(ポートフォリオ)でも、その項目は必須になる。
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曖昧さも複数あるのだな、すべてを家庭医療研修で深められるか、というのも少し気になる。
参考文献
私は家庭医療研修を修了したが、まだそこまで不確実性についてはまだ深められていないので、定番の参考資料を提示する。Antaaスライドは全体像を深めるのに非常にわかりやすかった。