いなか家庭医の勉強ノート

一人前の家庭医をめざして

EGP_日本の家庭医教育者におけるエキスパート・ジェネラリストの実践に関する視点:質的研究

Kaneko M, Oishi A, Sawa N, Irving G, Fujinuma Y. Perspectives on expert generalist practice among Japanese family doctor educators: a qualitative study. BJGP Open. 2021 Jun;5(3):BJGPO.2021.0011.

http://bjgpopen.org/lookup/doi/10.3399/BJGPO.2021.0011

背景・目的

家庭医自身が「家庭医の専門性は何か」を繰り返している。

EGPはジェネラリストの診療における専門性を示すものである。EGPは主に人を中心とした意思決定と解釈学的医療の実践に焦点を当てている。

日本では、EGPの重要性を強調する家庭医もいるが、日本の家庭医教育者のEGPに対する見解を調査した研究はない。本研究では、EGPの概念が重要であり、日本のプライマリ・ケアに適用可能であることを明らかにした。

https://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2015/03/08/230213

https://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2019/05/28/221336

https://moura.hateblo.jp/entry/2019/09/01/032240


デザイン・設定

日本の家庭医教育者を対象とした質的研究。

方法

EGPに関する短い講義の後、半構造化インタビューガイドを用いてフォーカスグループインタビューを実施した。質的記述法を採用し、フレームワーク法を用いて主題分析を行った。

結果

参加者は、家庭医療研修プログラムの責任者11名と副責任者6名を含む18名の家庭医療医師教育者であった。その結果、EGPの概念は重要であり、日本のプライマリ・ケアに適用可能であることが示唆された。EGPに関する参加者の認識は、EGPのインパクト、EGPのトリガー、EGPのイネーブラー、EGPの教育ストラテジーの4つの領域に関連していた。

影響

  • Positiveな影響(専門性の言語化、複雑困難事例と単純事例のフィルタリング、医療資源の効果的な利用、地域におけるケアの統合)

  • Negativeな影響(EGPを家庭医の専門性した場合、他の分野に興味を持つ家庭医との分断が生じるかもしれない)


EGPが使える状況Trigger

  • 未分化、複雑な健康問題、幅広いケア、ファーストコンタクト

  • 患者の意思決定能力がない場合


EGPを実現するには(Enablers)

  • 個人的要員(修行、文化、自己認識・自己管理、個人的資質:不確実性への許容能力を含む、)

  • 環境要因(長い時間、タスクシェア、多職種、制度)

  • 教育(OJT、ビデオレビュー、見て学ぶ、Case based discussion)(フレームワークの開発)


既存文献との比較

EGPの主な構成要素は
「人を中心とした意思決定」と「解釈的医療実践」
であり、本研究で確認されたように、日本の家庭医教育者もこれらの要素を診療に不可欠なものと捉えており、これがジェネラリスト・ケアの中核となる専門知識であることを認めている


さらに、日本の家庭医教育者は、EGPの肯定的な影響として、ケアの統合と医療資源の効果的な利用を挙げており、これは以前の知見と一致している。

リーブらは「明確な専門性に対する一貫した理解の欠如」、 「EGPを阻害する競合する優先順位」、 「解釈的診療のスキルの一貫した開発の欠如」、「管理可能なモニタリング構築のための資源の欠如」を挙げている。リーブらが指摘したものと同様に、本研究でも「EGPを習得している人へのアクセスの困難さ」と「EGPの概念の曖昧さ」がEGPの主な障壁であるとした。

これらの障壁を克服するために、リーブらは「概念の明確化」、「リスク層別化の再検討」、「トレーニングの延長と継続的な専門能力開発」、 「ジェネラリストの実践のためのエビデンスに基づくこと」を推奨している。*本研究では、EGPの教育的枠組みを構築することの有用性についても言及されたが、参加者は、EGPの本質的な特徴が、こうしたプロセスを通じて意図せずに失われてしまう可能性があることに言及した。

また、EGPを学ぶために自らの実践を振り返ることの重要性も指摘された。EGPの実践モデルであるSAGE(School for Advancing Generalist Expertise)モデルにも同僚とのリフレクションが含まれている。また、日本の家庭医教育者は、EGPの発達に必要な要素として、自己管理の促進や多職種連携の推進など、EGPを助長する環境づくりを挙げており、これは他国でも有用であろう。



EGPは、従来あまり認識されてこなかった家庭医による複雑な患者ケアに光を当て、その結果、家庭医の診療を促進する可能性を秘めている。しかし、EGPが患者ケアのプロセスやアウトカム、患者の病気体験にどのような影響を与えるかはまだ不明である。これらの点は今後の研究で明らかにされる必要がある。