不確実性に対するレジリエンスの関係性:前回読んだのは「他科 vs 家庭医」。今回は「年次」との関係だ
- Fujikawa H, Aoki T, Ando T, Haruta J. Do family physicians develop ambiguity tolerance as they gain experience? A multicenter cross-sectional study. Journal of General and Family Medicine [Internet]. [cited 2025 Feb 23];n/a(n/a). Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jgf2.778
背景
- 曖昧さ耐性は医師の患者ケアや精神的健康に寄与する重要な要素である。
- 家庭医は診断が不明確な患者や診断機器が制限された環境に対応するため、特に曖昧さ耐性が求められる。
- 先行研究では、家庭医は非家庭医よりも高い曖昧さ耐性を持つことが示されているが、曖昧さ耐性がいつ形成されるのかは不明である。
- 本研究では、卒後年数(PGY: Postgraduate Year)と曖昧さ耐性の関連を調査することを目的とする。
方法
研究デザイン
- 日本国内14の家庭医療研修プログラムに所属する家庭医を対象とした全国横断研究。
- 2024年2月にオンラインアンケートを実施。
対象者
- 日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)または日本専門医機構(JMSB)が認定する家庭医・総合診療医、またはその研修医(PGY3以上)。
- 651名の対象者に調査を依頼し、178名が回答(回収率27.3%)。うち5名のデータ欠損を除外し、173名を解析対象とした。
測定項目
- 主要アウトカム:臨床状況における曖昧さ耐性
- J-TAMSADスケール(日本語版医学生・医師用曖昧さ耐性尺度、0~100点)
- 副次アウトカム
※曖昧さ耐性尺度TAMSADの日本語訳(J-TAMSAD)の開発と妥当性の論文はこちら
Fujikawa, H., Son, D., Hayashi, M. et al. Translation, adaptation, and validation of the Tolerance of Ambiguity in Medical Students and Doctors (TAMSAD) scale for use in Japan. BMC Med Educ 23, 405 (2023). https://doi.org/10.1186/s12909-023-04391-1

結果
参加者の特徴
- 性別
- 男性:114名(65.9%)
- 女性:59名(34.1%)
- 卒後年数分布
- PGY 3–6:53名(30.6%)
- PGY 7–10:36名(20.8%)
- PGY 11–20:56名(32.4%)
- PGY 21以上:28名(16.2%)
PGYと曖昧さ耐性・燃え尽き症候群・ワークエンゲージメントの関連
- 曖昧さ耐性(J-TAMSADスコア)
- 卒後年数 7–10、11–20、 21以上は、卒後年数3–6よりも有意に高いスコアを示した(p<0.01)。
- PGYが進むにつれて曖昧さ耐性が向上。
- 燃え尽き症候群(BAT-Jスコア)
- PGY 7以上の群は、PGY 3–6に比べて有意に低いスコア(リスクが低い)を示した(p<0.01)。
- ワークエンゲージメント(UWESスコア)
- PGY 7–10およびPGY 11–20の群は、PGY 3–6よりも有意に高いスコアを示した(p<0.01)。
- しかし、PGY 21以上ではPGY 3–6と有意差なし。
考察
曖昧さ耐性の発達
- 本研究は、家庭医の曖昧さ耐性がPGYの進行に伴い向上することを示した初の研究である。
- 可能な要因
- 研修中の臨床経験
- 家庭医は診断が確定していない患者への対応や、限られたリソースの中での診療を求められる。
- これらの経験が曖昧さ耐性の向上に寄与した可能性がある。
- 指導医とのリフレクション
- 日本の家庭医研修では指導医と定期的に振り返りを行う習慣がある。
- これが曖昧さ耐性の成長を促した可能性がある。
- 研修中の臨床経験
燃え尽き症候群とワークエンゲージメントの変化
- 曖昧さ耐性が低いと、ストレスを強く感じ、バーンアウトのリスクが高まる。
- PGY 3–6は特に燃え尽き症候群のリスクが高い
- 研修中は頻繁に病院・診療科をローテーションし、責任も増大。
- この環境変化がストレス要因となっている可能性。
曖昧さ耐性のプラトー
- PGY 7以上では曖昧さ耐性がほぼ一定。
- 理由として考えられること
- 実務経験の蓄積により、曖昧な状況にも慣れる
- 教育による成長がPGY 6までで一定レベルに達する
- ただし、PGY 21以上でのワークエンゲージメント向上は見られず、これはさらなる研究が必要。
研修プログラムの課題
- 家庭医療研修中の研修医は、曖昧さ耐性が低く、バーンアウトリスクが高い可能性がある。
- 指導医は研修環境を評価し、以下の点に注力すべき
- 研修医が曖昧さ耐性を向上させる機会を意識的に設ける。
- 精神的負担を軽減するサポート体制の充実。
- 研修医のワークエンゲージメントを高める方策の導入。
結論
- 家庭医療研修修了後(PGY 7以上)の医師は、研修中の医師(PGY 3–6)よりも曖昧さ耐性が高く、バーンアウトリスクが低く、ワークエンゲージメントも高い。
- ただし、PGY 21以上ではワークエンゲージメントの向上が見られず、この点は今後の研究課題。
- 家庭医療研修中の医師が抱える課題を考慮し、教育プログラムの見直しが求められる。
研究の意義
- 家庭医の成長過程を明らかにする重要な知見を提供した
- 指導医が研修環境を改善するための基礎資料として活用可能である。
読後感想
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「家庭医療研修終了後の医師(卒後7年目)は、専攻医(3−6年目)より曖昧さ耐性が高く、バーンアウトリスクが低く、エンゲージメントも高い」
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家庭医が曖昧さ耐性が高いのは、以前から何となく感じていた。
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内科専攻医や、地域枠・自治医科大学の友人と比較するとなおさらだ。
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指導医は研修環境を評価し、以下の点に注力すべき
- 研修医が曖昧さ耐性を向上させる機会を意識的に設ける。
- 精神的負担を軽減するサポート体制の充実。
- 研修医のワークエンゲージメントを高める方策の導入。
→これがまだ具体的にイメージができない…
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私自身(医師8年目、家庭医療専門医とりたて)はどうだろう?
- 地域で周囲に相談する人が少ない場合、情報が足りないせいなのか、判断に妥当性があるのか、一人よがりになっていないか不安になる。
- これは「私」の問題だ。
- 未来は「予測できるところ」と「予測できないところ」が混在している。予測できるBiomedicalなEvidenceはしっかり学んでいく姿勢を継続したい。特に患者に説明する際は、数字や確率がわかるといいだろう。
- この不確実性を背負って(中腰力)、頑張るのも家庭医の能力のみせどころなのだろう。
- 未来がわからないことは、常に悪いとは限らない。もしかしたらいい方向に行くかもしれない。そんな期待を持って頑張っていきたい
参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/37/2/37_124/_article/-char/ja/
http://kai-shorin.co.jp/product/sc011.html
https://slide.antaa.jp/article/view/b926523d482b436a#1
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.615
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dxbias/202301/578123.html
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/113803


