いなか医師の勉強ノート

一人前の家庭医をめざして

Uncertainty_家庭医は年次を経るごとに不確実性への耐性が上がる―多施設横断研究―

不確実性に対するレジリエンスの関係性:前回読んだのは「他科 vs 家庭医」。今回は「年次」との関係だ

nanatsu0021.hatenablog.com

nanatsu0021.hatenablog.com

  1. Fujikawa H, Aoki T, Ando T, Haruta J. Do family physicians develop ambiguity tolerance as they gain experience? A multicenter cross-sectional study. Journal of General and Family Medicine [Internet]. [cited 2025 Feb 23];n/a(n/a). Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jgf2.778

背景

  • 曖昧さ耐性は医師の患者ケアや精神的健康に寄与する重要な要素である。
  • 家庭医は診断が不明確な患者や診断機器が制限された環境に対応するため、特に曖昧さ耐性が求められる。
  • 先行研究では、家庭医は非家庭医よりも高い曖昧さ耐性を持つことが示されているが、曖昧さ耐性がいつ形成されるのかは不明である。
  • 本研究では、卒後年数(PGY: Postgraduate Year)と曖昧さ耐性の関連を調査することを目的とする。

方法

研究デザイン

  • 日本国内14の家庭医療研修プログラムに所属する家庭医を対象とした全国横断研究。
  • 2024年2月にオンラインアンケートを実施。

対象者

  • 日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)または日本専門医機構(JMSB)が認定する家庭医・総合診療医、またはその研修医(PGY3以上)。
  • 651名の対象者に調査を依頼し、178名が回答(回収率27.3%)。うち5名のデータ欠損を除外し、173名を解析対象とした。

測定項目

  1. 主要アウトカム:臨床状況における曖昧さ耐性
    • J-TAMSADスケール(日本語版医学生・医師用曖昧さ耐性尺度、0~100点)
  2. 副次アウトカム
    • 燃え尽き症候群バーンアウトBAT-Jスケール(1~5点、高得点ほどリスクが高い)
    • ワークエンゲージメントUWESスケール(0~6点、高得点ほど仕事への没入度が高い)

※曖昧さ耐性尺度TAMSADの日本語訳(J-TAMSAD)の開発と妥当性の論文はこちら

Fujikawa, H., Son, D., Hayashi, M. et al. Translation, adaptation, and validation of the Tolerance of Ambiguity in Medical Students and Doctors (TAMSAD) scale for use in Japan. BMC Med Educ 23, 405 (2023). https://doi.org/10.1186/s12909-023-04391-1



結果

参加者の特徴

  • 性別
    • 男性:114名(65.9%)
    • 女性:59名(34.1%)
  • 卒後年数分布
    • PGY 3–6:53名(30.6%)
    • PGY 7–10:36名(20.8%)
    • PGY 11–20:56名(32.4%)
    • PGY 21以上:28名(16.2%)

PGYと曖昧さ耐性・燃え尽き症候群・ワークエンゲージメントの関連

  1. 曖昧さ耐性(J-TAMSADスコア)
    • 卒後年数 7–10、11–20、 21以上は、卒後年数3–6よりも有意に高いスコアを示した(p<0.01)。
    • PGYが進むにつれて曖昧さ耐性が向上。
  2. 燃え尽き症候群(BAT-Jスコア)
    • PGY 7以上の群は、PGY 3–6に比べて有意に低いスコア(リスクが低い)を示した(p<0.01)。
  3. ワークエンゲージメント(UWESスコア)
    • PGY 7–10およびPGY 11–20の群は、PGY 3–6よりも有意に高いスコアを示した(p<0.01)。
    • しかし、PGY 21以上ではPGY 3–6と有意差なし。

考察

曖昧さ耐性の発達

  • 本研究は、家庭医の曖昧さ耐性がPGYの進行に伴い向上することを示した初の研究である。
  • 可能な要因
    1. 研修中の臨床経験
      • 家庭医は診断が確定していない患者への対応や、限られたリソースの中での診療を求められる。
      • これらの経験が曖昧さ耐性の向上に寄与した可能性がある。
    2. 指導医とのリフレクション
      • 日本の家庭医研修では指導医と定期的に振り返りを行う習慣がある。
      • これが曖昧さ耐性の成長を促した可能性がある。

燃え尽き症候群とワークエンゲージメントの変化

  • 曖昧さ耐性が低いと、ストレスを強く感じ、バーンアウトのリスクが高まる。
  • PGY 3–6は特に燃え尽き症候群のリスクが高い
    • 研修中は頻繁に病院・診療科をローテーションし、責任も増大。
    • この環境変化がストレス要因となっている可能性。

曖昧さ耐性のプラトー

  • PGY 7以上では曖昧さ耐性がほぼ一定。
  • 理由として考えられること
    1. 実務経験の蓄積により、曖昧な状況にも慣れる
    2. 教育による成長がPGY 6までで一定レベルに達する
  • ただし、PGY 21以上でのワークエンゲージメント向上は見られず、これはさらなる研究が必要。

研修プログラムの課題

  • 家庭医療研修中の研修医は、曖昧さ耐性が低く、バーンアウトリスクが高い可能性がある。
  • 指導医は研修環境を評価し、以下の点に注力すべき
    • 研修医が曖昧さ耐性を向上させる機会を意識的に設ける。
    • 精神的負担を軽減するサポート体制の充実。
    • 研修医のワークエンゲージメントを高める方策の導入。

結論

  • 家庭医療研修修了後(PGY 7以上)の医師は、研修中の医師(PGY 3–6)よりも曖昧さ耐性が高く、バーンアウトリスクが低く、ワークエンゲージメントも高い。
  • ただし、PGY 21以上ではワークエンゲージメントの向上が見られず、この点は今後の研究課題。
  • 家庭医療研修中の医師が抱える課題を考慮し、教育プログラムの見直しが求められる。

研究の意義

  • 家庭医の成長過程を明らかにする重要な知見を提供した
  • 指導医が研修環境を改善するための基礎資料として活用可能である。

読後感想

  • 「家庭医療研修終了後の医師(卒後7年目)は、専攻医(3−6年目)より曖昧さ耐性が高く、バーンアウトリスクが低く、エンゲージメントも高い」

  • 家庭医が曖昧さ耐性が高いのは、以前から何となく感じていた。

  • 内科専攻医や、地域枠・自治医科大学の友人と比較するとなおさらだ。

    • 研修中の臨床経験」はへき地で働くのであればそんなに変わらない
    • 「指導医とのリフレクション」は、自治・地域枠にはない活動だ。これが曖昧さ耐性につながっているのかも。日々のふり返りはやはり大事なのだろう。
    • もしくは、**「曖昧さ耐性がもともと高い医学生が、家庭医になりやすい」**可能性もある。今回は横断研究なので因果関係は評価できない。学生時代から曖昧さ耐性を評価し、前向きに追いかけていけばこれが証明できるかもしれない。
  • 指導医は研修環境を評価し、以下の点に注力すべき

    • 研修医が曖昧さ耐性を向上させる機会を意識的に設ける。
    • 精神的負担を軽減するサポート体制の充実。
    • 研修医のワークエンゲージメントを高める方策の導入。

    →これがまだ具体的にイメージができない…

  • 私自身(医師8年目、家庭医療専門医とりたて)はどうだろう?

    • 地域で周囲に相談する人が少ない場合、情報が足りないせいなのか、判断に妥当性があるのか、一人よがりになっていないか不安になる。
    • これは「私」の問題だ。
    • 未来は「予測できるところ」と「予測できないところ」が混在している。予測できるBiomedicalなEvidenceはしっかり学んでいく姿勢を継続したい。特に患者に説明する際は、数字や確率がわかるといいだろう。
    • この不確実性を背負って(中腰力)、頑張るのも家庭医の能力のみせどころなのだろう。
    • 未来がわからないことは、常に悪いとは限らない。もしかしたらいい方向に行くかもしれない。そんな期待を持って頑張っていきたい

参考

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/37/2/37_124/_article/-char/ja/

 

http://kai-shorin.co.jp/product/sc011.html

 

https://slide.antaa.jp/article/view/b926523d482b436a#1

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.615

 

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dxbias/202301/578123.html

 

https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/113803


HF_心不全をきたした中等度〜重度僧帽弁閉鎖不全症に、経カテーテル弁修復術を行うと、予後を改善するか?RESHAPE-HF2試験

Anker SD, Friede T, Bardeleben RS von, et al. Transcatheter Valve Repair in Heart Failure with Moderate to Severe Mitral Regurgitation. New England Journal of Medicine. 2024 Nov 13;391(19):1799–809.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2314328

 

【背景】

機能性僧房弁不全閉鎖症の多くは、薬物療法・心臓再同期療法を行っても症状が残っている。経カテーテル手術(MitraClip)は有益性のエビデンスが矛盾しているため、国際心不全ガイドラインでは強い推奨にはならない。

  • MITRA-FR(重症機能性/二次性僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClipによる経皮的修復術)試験では、経皮的修復術は内科的治療のみと比較して、1年後および2年後におけるあらゆる原因による死亡率や心不全による入院率の低下にはつながらないことが示された。

  • 対照的に、COAPT(機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者に対するMitraClip経皮的治療の心血管アウトカム評価)試験では、経カテーテル的僧帽弁修復術は24ヵ月の追跡期間中、内科的治療単独よりも心不全による入院率が低いだけでなく、あらゆる原因の死亡率も低いことが示された。

世界中で15万人以上の患者が経カテーテル的僧帽弁形成術を受けているが、有効性の決定的なエビデンスは、特に中等度または中等度から重度の機能的僧帽弁逆流を有する患者に対しては限られている。我々は、症候性心不全と機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する患者における経カテーテル的僧帽弁修復術の安全性と有効性に関する更なるエビデンスを提供するために無作為化試験を実施した。


【方法】
9ヵ国30施設の中等度から重度の機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者を対象とした無作為比較試験を行った。 患者は1:1の割合で、経カテーテル的僧帽弁形成術とガイドラインで推奨されている薬物療法(デバイス群)または薬物療法単独(対照群)のいずれかに割り付けられた。

主要エンドポイントは、

  1. 4ヵ月間の心不全による初回もしくは再発入院または心血管死の複合率

  2. 24ヵ月間の心不全による初回もしくは再発入院率

  3. Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire-Overall Summary(KCCQ-OS) scoreのベースラインから12ヵ月までの変化 ※

※7領域23項目を0−100でスコアリングした自記式質問票(症状の頻度、症状の負担感と安定性、身体的制限、社会的制限、QOL、自己効力感)。NYHAより正確でスコアが高いほど健康状態が良好。

【結果】

505例がRCT→250例がデバイス群に、255例が対照群。平均70±10歳、EF中央値31%、KCCQ-OSスコア中央値43点(40−59点が≒NYHAⅢ)。薬剤のベースは変わらず(tabel1)

①24ヵ月後の心不全による初回入院または再発入院または心血管死の発生率は、デバイス群で100人年あたり37.0イベント、対照群で58.9イベント(発生率比、0.64;95%信頼区間[CI]、0.48~0.85;P=0.002)。

心不全による初回または再発入院の発生率は、デバイス群で100人年あたり26.9イベント、対照群で46.6イベントだった(発生率比、0.59;95%信頼区間[CI]、0.42~0.82;P=0.002)。

KCCQ-OSスコアは、デバイス群で平均21.6±26.9点、対照群で8.0±24.5点上昇した(平均差、10.9点;95%CI、6.8~15.0;P<0.001)。(table2)

安全性(table3):デバイスに特異的な術中有害事象は4例(1.6%)に発生。血腫2例、心嚢液貯留1例、右心房穿孔による開胸術1例

【限界】

薬物療法のみを受けるよう割り当てられた患者の中には、最終的に経カテーテル僧帽弁修復術を受けた人もおり、観察された治療効果が薄れた可能性がある。死亡率の違いを示す設計ではなかった。

【結論】

中等度から重度の機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者で薬物療法を受けた患者において、経カテーテル的僧帽弁修復術を追加することにより、薬物療法単独と比較して、24ヵ月後の心不全による初回入院または再発入院、心血管死の発生率が低く、12ヵ月後の健康状態も良好であった。
(アボット・ラボラトリーズによる資金提供あり)


【読後感想】

  • MitraClipを使えば、2年間で心不全入院または死亡率を0.6倍に減らせる。NNTを計算すると5.1人。

  • 症状はNYHA分類でいうと1段階減らせるイメージか。

  • まずまずといったところだが、気になる点が2つ。

  1. 複合アウトカムなので、実臨床でイメージしにくい。死亡率について有意差があったらわかりやすいのに。そう思って本文を読んでいくと、二次アウトカムに位置する死亡率には有意差が確認できなかった。うーむ。

  2. あと患者のbase。年齢が70代とかなり若い。大動脈弁狭窄症のTAVIとかは超高齢でも侵襲性が低いため、手術に耐えられない超高齢者でもやる意味が大きい。しかしMitraclipは超高齢者に有効かどうかはまだ不明だ。この年齢なら手術のほうがいいのでは、と思うのは私が非外科医・循環器内科医だからだろうか。

  • 以上より、私が患者にMitraclipを目的として紹介する機会は、少なくともプライマリ・ケア領域では現時点ではないだろう。日本の弁膜症ガイドラインでもまだ賛否両論のようだし。

ガイドラインシリーズ | 一般社団法人 日本循環器学会 www.j-circ.or.jp  

Homecare_在宅医療での延命治療中止の実態は?(横断研究)_JGFM

Takeshita K, Nagao N, Dozono T, Kamiya K, Miura Y. Withdrawal of life-sustaining treatment in Japanese home care: A cross-sectional survey. Journal of General and Family Medicine [Internet]. [cited 2025 Jan 29];n/a(n/a). Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jgf2.771

 

 

背景

  • 日本では延命治療(life-sustaining treatment:LST)の中止に対する法的・社会的な懸念が根強い。

    • 世界医師会は、積極的安楽死と医師による自殺幇助を否定する一方で、患者の意思に基づく延命治療の中止は倫理的に容認されると主張している。

    • 日本でも積極的安楽死は違法とされているが、延命治療の中止に関する公的な合意形成は不十分である。

  • 過去の事件を背景に、2007年に厚生労働省「終末期医療の意思決定プロセスに関するガイドラインを発表した。特に本人の意志が確認できない場合、医療チームによる多職種会議を推奨している※

    • ガイドラインの公表により、延命治療の中止の法的懸念は減少したとの指摘がある。

    • しかし、日本における 延命治療の中止の実態については十分なデータが不足している。在宅医療の増加(2000年の15.8%→2021年の27.2%)に伴い、在宅医療における延命治療中止の実態を調査する必要がある。

※「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂について |報道発表資料|厚生労働省 「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂についてについて紹介しています。 www.mhlw.go.jp  
 

※さらに、自発的な飲食中止 (voluntarily stopping eating and drinking:VSED) が過去 10 年間で独自の行為として認識されるようになった。VSED は、**「受け入れがたい苦痛が続いているため、死を早めることを主な目的として、能力のある人が自発的に意図的に飲食を中止することを選択する行為」**と定義され、今回の研究に含んでいる。

研究目的

  • 日本の在宅医療に従事する医師・看護師の延命治療中止の経験を明らかにする。

  • 延命治療中止の意思決定プロセスを調査する。

  • 自発的飲食中止を試みた患者の経験についても調査する。


方法

調査対象

  • 日本在宅医療学会(JAHCM)に登録されている医師2,785名、看護師582名を対象にWebアンケートを実施(2020年)。

調査内容

  • 延命治療中止の経験、意思決定の方法、自発的飲食中止患者の対応経験について質問。

  • 回答者の匿名性を確保し、倫理的承認を得た上で調査を実施。


結果

回答者

  • 合計203名(医師150名、看護師53名)。

  • 医師の主な勤務先:在宅医療クリニック(77%)、在宅医療病院(11.8%)。

  • 看護師の主な勤務先:訪問看護ステーション(47.2%)、在宅医療クリニック(18.9%)。

延命治療中止の内容

  • 最も中止が求められた延命治療

    • 静脈点滴(127名)

    • 経管栄養(102名)

    • 経口薬投与(94名)

  • 実際に中止した延命治療

    • 静脈点滴(115名・中止率90.6%)

    • 経管栄養(69名・中止率67.6%)

    • 経口薬投与(74名・中止率78.7%)

  • 呼吸管理(人工呼吸器、在宅酸素療法)を中止したケースは少数(それぞれ11名、12名)。

延命治療中止の対象患者

  • 主な疾患

    • 悪性腫瘍(118名)

    • 老衰(94名)

    • 認知症(80名)

  • 診断別のLST中止率

    • 悪性腫瘍:93.2%

    • 老衰:89.4%

    • 認知症:86.3%

    • 脳血管疾患:76.2%(医師は83.8%、看護師は20.0%)

意思決定の方法

  • 患者家族と相談(117名・73.1%)

  • 施設内での多職種協議(80名・50.0%)

  • 単独で決定した医師(23名・19.8%、看護師は0名)

  • 他施設との多職種協議(53名・33.1%、看護師の方が多い)

自発的飲食中止VSEDの経験

  • VSEDを完遂した患者を担当(32名・15.8%)

  • VSEDを試みたが途中で断念(10名・4.9%)

  • VSEDを試みたが説得により中止(3名・1.5%)

  • VSED患者の経験なし(153名・75.4%)


考察

呼吸管理中止への抵抗感

  • 人工呼吸器や在宅酸素療法の中止率が低い理由:

    • 生命への直接的な影響が大きいため、医療者が慎重になる。

    • 過去に人工呼吸器の中止が社会問題化した事例があり、刑事事件として扱われた経緯がある(川崎事件、富山事件など)。

    • これらの事件を受けて、2007年に厚生労働省ガイドラインを発表。

医師と看護師の違い

  • 医師は点滴・経口薬の中止経験が多いが、看護師は少ない。

  • 看護師は他職種と協議する傾向が強いが、医師は単独で決定するケースもある。

  • 医師と看護師のLST中止経験の差は、制度的・環境的な要因が影響している可能性

倫理支援の必要性

  • 多職種協議の推奨にもかかわらず、医師が単独で延命治療中止を決定するケースがある。

  • 在宅医療では多職種連携が難しい実態があり、倫理支援の体制整備が急務。

  • 在宅医療における倫理支援システムの構築が必要

家族の役割

  • 延命治療中止の意思決定において、家族の意見が重要視されている。

  • 患者本人の意思を尊重するための仕組みが求められる

自発的飲食中止VSEDの実態

  • VSEDは日本でも一定数の事例があるが、社会的認知度は低い。

  • ガイドラインが存在せず、医療者の対応が困難

  • 欧米では自発的飲食中止VSEDが一定の割合を占める(スイス1.1%、オランダ0.4%)ため、日本でも実態調査と公的指針の整備が必要。


結論

  • 多くの在宅医療従事者が延命治療中止経験を持つ

  • 自発的飲食中止VSEDを経験した医師・看護師も一定数存在する

  • 多職種協議の推奨にも関わらず、単独での意思決定が行われるケースもある

  • 倫理的な課題に対応するための支援体制が求められる


読後感想

  • どのくらいの割合の医療従事者が延命治療を中止したかについては不明だが、回答者の203名のうち、多くが点滴・経管栄養の中止を選択した暦はある様子。

  • 悪性腫瘍、老衰、認知症、脳血管障害の頻度が多いのも、疾患頻度が多いので頷ける。

  • 個人的には、意思決定の方法が注目に値する。

    • 患者家族と相談で決定した歴が73%、施設内多職種会議が50%、他施設多職種会議が33%と、多職種会議が意外と行われていない。在宅医療が割と密室、患者家族と密接な関わりがあるからこそ、この割合なのだろう。

    • 単独で決定した例が19.8%いることに驚く。仮に天涯孤独の患者で、医師が1人しかいなかったとしても、看護師や入居施設の職員などは居なかったのだろうか?

  • 自発的飲食中止VSEDというのも初めて知った。食事能力が残っているにも関わらず食事を絶つのは、意識がはっきりしている状況では少し怖い。しかし欧米では結構されているらしい。びっくりだ。もし本人の強い意志があるのであれば、いったいどんな思いでそこに至ったのだろうか。

    • ジャイナ教は激しい修行による「断食死」が理想の死に方の一つ、尊厳死の一種として語られている文脈があるようだ(手塚治虫の”ブッダ”で似たようなシーンは読んだ

はじめてのジャイナ教 J-STAGE www.jstage.jst.go.jp  

  • 私は現在、在宅医療のクリニックで週1勤務している。確かに在宅医療は密室で行われているため、孤独になりやすい。だからこそ自分の意思決定が妥当か迷う。倫理的な面での多職種カンファを事前・事後的にも行えれば、かなり負担は楽になるだろう。

  • 延命治療中止を行うことに対する医療従事者や家族の苦悩についての質的研究も軽く調べたらヒットした。在宅医も同様かが気になる。

末期患者における人工呼吸器の中止-救急医に対する質的研究- J-STAGE www.jstage.jst.go.jp  
クリティカルケア熟練看護師が見出した延命治療に関する家族の代理意思決定を支える看護実践 J-STAGE www.jstage.jst.go.jp  

Group practice_家庭医グループ診療は、救急外来受診を抑制するか?

Salahub C, Austin PC, Bai L, Berthelot S, Bhatia RS, Bird C, et al. Health Care Utilization After a Visit to a Within-Group Family Physician vs a Walk-In Clinic Physician. The Annals of Family Medicine. 2024 Nov 1;22(6):483–91.

www.annfammed.org

研究の目的

  • かかりつけ医が不在の場合、家庭医グループか、もしくはグループに属さない医師のどちらかが診察することになる。かかりつけ医が不在時の代替モデルの比較研究は少ない。
  • 本研究では、以下の2つのケースを比較した:
    1. 家庭医グループ内の別の医師(Within-group physician)を受診した患者
    2. ウォークインクリニックの医師(Walk-in clinic physician)を受診した患者
  • 比較対象は、受診後7日以内の救急外来(ED)の受診率。

研究方法

研究デザイン

  • 後ろ向きコホート研究
  • 対象地域:カナダ・オンタリオ州
  • 対象期間:2019年4月1日~2020年3月31日
  • 対象者:家庭医に正式登録された全患者
  • データソースオンタリオ州の行政データベース(ICES)
  • 方法
    • 傾向スコアマッチングを使用し、患者の特性を揃えて比較
    • 主要アウトカム:初回受診から7日以内の救急外来受診

結果

主要な結果

  • 家庭医グループ内の医師を受診した患者は、救急外来の受診率が10%低かった
    • Within-group physician:4.0%(20,117/506,033)
    • Walk-in clinic physician:4.4%(22,320/506,033)
    • リスク差(RD):0.4%(95% CI, 0.4-0.5)
    • 相対リスク(RR):0.90(95% CI, 0.89-0.92)

サブグループ解析(週末のみの受診)

  • 週末の受診に限定すると、差がより顕著だった
    • Within-group physician:3.7%(7,964/213,190)
    • Walk-in clinic physician:4.7%(10,055/213,190)
    • リスク差(RD):1.0%(95% CI, 0.9-1.1)
    • 相対リスク(RR):0.79(95% CI, 0.77-0.82)

追加の医療利用

  • Within-group physician を受診した患者は、7日以内に 家庭医グループ内での追加受診(対面 or バーチャル) の可能性が高かった。
    • バーチャル診察:RR 1.86
    • 対面診察:RR 1.87

考察

救急外来受診率の低下の要因

  • 情報の継続性:家庭医グループ内では、電子カルテが共有されており、患者の病歴を把握した上での診療が可能。
  • 診療の一貫性:グループ内の医師が診察することで、診断・治療の連携が取りやすく、適切なフォローアップが可能。
  • 患者の信頼:慣れ親しんだ医療機関で診療を受けることで、適切な治療を受けたという安心感が生まれ、不要な救急外来利用を抑制。

都市部と地方での差

  • 都市部では救急外来受診率の低下が顕著(RR 0.86, 95% CI, 0.84-0.88)
  • 地方ではむしろ救急外来受診率が上昇(RR 1.26, 95% CI, 1.13-1.41)
    • 背景:地方では家庭医が救急外来を兼務していることが多く、救急外来がよりアクセスしやすいのかも?

政策への示唆

  • 家庭医グループ内でのアフターアワーズ診療の促進により、救急外来の負担を減らせる可能性がある。
  • 患者の約60%は家庭医グループの時間外診療の存在を知らないという調査結果もあり、周知が重要
  • 救急外来受診を単純に減らすことが良いとは限らず、適切な診療が提供されているかの検証が必要。

限界と今後の課題

  • 因果関係の証明が困難
    • 患者の受診行動(アクセスのしやすさや受診理由の緊急度)が救急外来受診に影響している可能性。
    • 医師の診察内容やフォローアップの質が異なる可能性。
  • 地方における異なる傾向
    • 都市部と地方では医療システムの機能が異なり、一律の政策が適用できるか検討が必要。
  • 電子カルテの有無
    • すべてのグループ内診療が電子カルテを共有しているわけではなく、情報の継続性が常に確保されているわけではない。
  • 救急外来受診の質的評価
    • 受診の抑制が必ずしも良い医療の提供を意味するわけではないため、今後さらなる分析が求められる。

結論

  • 家庭医グループ内の医師を受診することで、救急外来の利用が若干減少する可能性がある
  • 特に都市部では、家庭医グループ内のアフターアワーズ診療が救急外来利用の抑制に寄与する。
  • 政策として、患者への認知度向上や家庭医グループ内の診療体制強化が有効な可能性がある。
  • 今後、診療の質や電子カルテの利用状況などを考慮した研究が必要

読後感想

  • 家庭医グループ診療のほうが以後の救急外来の受診を0.4%減らすことが出来る。都市部はより効果が高く、逆に地方では逆に救外受診が増える可能性がある。
    • アウトカムの設定より、救急受診をできる限り抑制したいお国柄を感じる。
    • しかし0.4%って・・・あまり効果がないと思ってしまうのは私だけだろうか?
    • だいたいこういう論文ではっきりしたアウトカムがでることが珍しい気がする。交絡因子が多すぎるのが原因の一つだろう。
    • 家庭医グループが診ることのメリットは「情報や関係の継続性による患者の安心感」「医師の負担抑制」あたりだと思うので、確かに定量的に測定することは難しいだろう。
  • 日本では主治医制への信仰が、医師・患者ともに根強い
    • しかし、2024年4月より始まった「医師の働き方改革」的には、複数主治医制やタスクシェアが推奨されている。グループ制に移行することのメリットを明示することで、お互いの納得につながるのだろう。この論文もその一助となるかもしれない。  

iryou-ishi-hatarakikata.mhlw.go.jp

 

Education_地域でジェネラリズム教育を行うには?JPCA2024浜松_Journal of General and Family Medicine

Matsumura S, Yamaguchi Y, Okazaki F, Kitanishi F, Tomita S, Takagi H. Developing sustainable generalism education in community settings: Insights from the JPCA (Japan Primary Care Association) Conference, 2024. Journal of General and Family Medicine

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jgf2.770

 

背景

  • ジェネラリズム(Generalism)の重要性

    ジェネラリズムは国際的に医療教育の中核として認識されており、特にプライマリケア医学において必要不可欠である。日本の2022年改訂モデル・コア・カリキュラムにおいても、ジェネラリズムの教育が強調されている。

    https://www.igaku-shoin.co.jp/application/files/5616/7818/4359/3509_01.pdf

  • 地域教育の課題

    • 高度医療機関や病院での教育が中心であり、地域での教育資源は不足している。
    • 教育における障壁として、以下が挙げられる:
      • 教員の数が限られていること。
      • 臨床業務と教育の二重負担。
      • 学習者や指導者向けの効果的な教材の不足。

 

JPCA学術大会2024での議論

  • 地域におけるジェネラリズム教育の将来像について、プライマリケア医、大学教員、地域指導者、研修医、医学生などが参加し意見を収集した。
  • 提案された具体的な解決策
    1. 持続可能なカリキュラムの構築
      • 学習者と指導者双方に負担の少ない1週間のプログラム。
      • AIを活用した個別学習サポートツールの導入。
      • 多様なニーズやスケジュールに対応する柔軟な教育パッケージの提供。
    2. 地域での教育チームの形成
      • 多職種連携による教育チームの設立。
      • 地域設定に適した実践的な指導ガイドの提供。
      • ベストプラクティスを共有するための機関間コラボレーションの推進。
    3. 共通教育ツールの開発
      • 基本的な学習を補うEラーニング教材の作成。
      • VRを利用した地域活動のシミュレーションプログラム。
      • 教育資源を共有し応用するためのAIツール。

緊急課題

  • 地域医療やジェネラリズムの文脈に適したカリキュラムの開発とその有効性の検証が急務である。
  • 持続可能で効果的な医療教育を実現するための基盤整備が必要とされる。

読後感想

  • 今回はLetterだが、私にとって興味深いテーマだった。
  • 私は「あらゆる医学生にGeneralismを涵養する」ことを夢想している。
    • 全員が習熟する必要はないが、その視点を知って、その視点で診られるのはやってほしいな、と思っている。
    • 一介の大学教員として、カリキュラムを大幅に変えることはできない。せいぜい地域医療で回ってくる医学科5年の実習生を1週間地域医療漬けにするくらいだ。
    • 他科が2週間なのにくらべ、地域医療は1週間である。短いな…と思っていたが、本文中に「学習者と指導者双方に負担の少ない1週間のプログラム」が述べられていることに希望を見出した。
    • 来年度以降、もっと頑張ってみようと思った。
  • またE-ラーニングやVR、AIなどのツールにも注目が集まっているのが興味深い。このあたりは私も好きな分野なので、もう少しいろいろ考えてみたい。
    • 模擬患者をAiで作って問診練習をさせる方法を考えているが、やり方がいまいちわからない…どんなプロンプトとかツールを使えば良いんだろう…

BMJ Christmas_ディズニープリンセスたちの隠れた健康リスクとは?

Living happily ever after? The hidden health risks of Disney princesses While much current research on Disney princesses focuses on t www.bmj.com  

Dijk SHB van, Bui M, Eijkelboom AH. Living happily ever after? The hidden health risks of Disney princesses. BMJ. 2024 Dec 16;387:q2497.

  • 本研究では、プリンセス自身が直面する潜在的な健康リスクに焦点を当てる必要性を提唱する。これからもプリンセスたちが健康的に「幸せに暮らす」ためには、ディズニーが介入を行うことが求められる。

すべてのディズニープリンセスのイラスト

 

 

プリンセスごとの健康リスク分析

白雪姫

  • 社会的孤独と健康リスク

    • 七人の小人によって孤独は軽減されたが、白雪姫は継母により社交の機会は限られていた。Social determinant of health(SDH)の考えより、社会的孤立は心血管疾患、うつ病、不安障害、死亡率増加と関連している。

    • その後、リンゴの摂取で「永遠の眠り」についてしまった。「一日一個のリンゴで医者いらず」ということわざは、白雪姫には適用されないことが分かる。

ジャスミン(アラジン)

  • 社会的孤立・虎との同居によるリスク

    • 宮殿内で社交の機会が限られており、白雪姫と同様、孤立が精神的健康に悪影響を及ぼすリスクがある(認知症、不安障害、免疫系の乱れ)。

    • ペットの虎(ラジャー)は人獣共通感染症重篤な怪我のリスクをもたらす。虎との共存には安全対策の導入が必要である。

シンデレラ

  • 粉塵曝露による健康問題

    • 家事労働による粉塵暴露で職業性肺疾患(OLD)や肺癌のリスクがある。

    • 魔女の魔法で撒かれる魔法のラメはマイクロプラスチックであり、さらに健康を悪化させる可能性がある。粉塵に対する個人用防護具が必要になる。

    • シンデレラは王子と末永く幸せに暮らすため、継続的な呼吸療法が必要になる。

ポカホンタス

  • 高所からの飛び込みと身体への影響

    • 彼女の崖からの飛び込みは9秒かかっている。成人女性の身長162cm・体重62kgから考えると、崖の高さは約252mになる。

    • 崖からの飛び込みを繰り返すと、骨折や重傷のリスクを伴う。彼女は今後、美しい自然との調和ではなく、モノクロの世界(レントゲン検査)との付き合いになるだろう…

オーロラ姫(眠れる森の美女)

  • 長時間睡眠のリスク

    • 過度な睡眠は心血管疾患、肥満、糖尿病、筋萎縮、褥瘡のリスクを増加させる。

    • 王子のキスで短期間で目覚めるが、同意を得ていない点が現代の社会規範に反する。

ムーラン

  • 名誉をめぐる暴力と精神的健康

    • 家族や社会からのプレッシャーを受ける女性は、不安障害や精神的ストレスを生じるリスクが高い。

    • ドラゴン(ムーシュー)の慰めは効果的でない可能性がある。

ベル(美女と野獣

  • 野獣との感染症リスク、ガストンとの精神的健康リスク

    • 設定上、野獣は、バッファローの頭・ゴリラの眉毛・イノシシの牙・ライオンのたてがみ・クマの腕と身体・狼の足と尾を持っているキメラである。野獣との接触は、人獣共通感染症ブルセラ症狂犬病)など命に関わる感染症の危険がある。

    • しかし、恋のライバルの設定であるガストンは病的なナルシストである。病的なナルシストとの結婚はうつ病・不安障害リスクを優位に高める。

    • リスクはあるが、「知っている野獣の方が良い」とアドバイスできる。

ラプンツェル塔の上のラプンツェル

  • 髪の長さと健康問題

    • ラプンツェルの髪の長さは21m以上ある。長期的には牽引性脱毛症(TA)を起こす可能性もあり、短期的には牽引による頭皮痛が発生するリスクがある。

    • 継続的な頭痛により精神的ストレスも増加するだろう。

Simulating Rapunzel's hair in Disney's Tangled | ACM SIGGRAPH 2010 Talks dl.acm.org  
 
 

総括

  • 各プリンセスのストーリーには現実世界での健康リスクが反映されている。

  • 健康的な「ハッピーエンド」を実現するには、物語やキャラクター設定における健康意識の向上が必要である。

  • 今後、心理療法や保護対策の導入が推奨される。

 

 

読後感想

  • クリスマスになるとなぜかジョークを交えた論文を掲載する、BMJ Christmasの季節がやってきた。いろいろ興味深いものがあるが、最近ディズニーオタクの友人のすすめでディズニーを見返しており、こちらの論文が目に止まった。

    • 大人になってからディズニー映画を観なおすと、かなり面白いことに気づいた。

    • 物語の裏にあるテーマも割と深くて考えさせられるものも多い。登場人物の深いバックボーンを想起させる設定の奥深さを感じる。またアニメーションとしてもヌルヌル動く。短時間で面白い展開を次々に用意し、観客を飽きさせない脚本もいい。さすがディズニー。

    • 昔は「急に踊り歌いだして何やってんだろう…?」と不思議に思い、どうしても感情移入が出来なかった。その後、ディズニーは「アメリカのブロードウェイ・ミュージカルの手法を取り入れ、感情や思いを歌で表現している」というルールが分かってからは引っかかることがなくなり、より物語に没入できるようになった。

  • まだ観ている本数は多くないが、「美女と野獣」と「リトル・マーメイド」は特に好きだ。

    • 本好きの私としては、本を泥水に投げ捨て足蹴にしたガストンを絶対に許さない。

    • なので、論文内の評価が野獣≧ガストンだったのが非常に嬉しい。もし野獣のまま戻らなくても、ベルに怪我をさせるような野獣ではないだろう。

  • そういえばオーロラ姫の「同意を得てないキス」だが、白雪姫にも当てはまるのではないだろうか? 白雪姫はキス=蘇生処置、と考えると、なんとか整合性はとれるだろうか? どちらも昔見たきりなのでいまいち自信がない。また視聴しよう。

  • 物語に対する野暮なツッコミといえばそれまでだが、プリンセスたちがこれからも健康的であるため、また子どもたちの素朴で容赦ないツッコミに耐えるためには有効な論文だろう。プリンセスたちのこれからに幸あれ。

Demantia_プライマリ・ケアで認知症を早期発見するには?_Annals of Family Medicine. 2024

Hilsabeck RC, Perry W, Lacritz L, Arnett PA, Shah RC, Borson S, et al. Improving Early Detection of Cognitive Impairment in Older Adults in Primary Care Clinics: Recommendations From an Interdisciplinary Geriatrics Summit. The Annals of Family Medicine. 2024 Nov 1;22(6):543–9.
https://www.annfammed.org/content/22/6/543

論文概要

  • 高齢化が進む中、アルツハイマー病(AD)やアルツハイマー関連認知症(ADRD)の罹患者は今後40年で倍増し、米国では約1400万人に達する見込みである。

  • 認知症は重大な社会的負担を伴い、早期段階での介入が重要である。

  • プライマリケアは、認知機能低下の最初の診断場所であり、診断率向上のための役割が期待される。

  • 本論文では、認知機能低下を早期発見するためのプライマリケアでの新たなワークフローと推奨事項を提案している。

 

 

認知機能低下の課題と重要性

認知機能低下の現状

リスク評価の必要性

  • 全高齢者を対象としたスクリーニングは非現実的であり、リスクに基づいたスクリーニングが推奨される。

  • リスク評価ツール:

    • Brief Dementia Screening Indicator(BDSI)※

    • Rapid Assessment of Dementia Risk(RADaR)※

※Brief Dementia Screening Indicator(BDSI)≧22点以上で認知機能評価推奨

  1. 年齢(65歳→0点。65−79歳→1年毎に1点追加)(80歳以上は認知機能評価推奨)

  2. 12年以上の教育歴(はい→9点)

  3. BMI<18.5(はい→8点)

  4. 2型糖尿病の既往(はい→3点)

  5. 脳卒中の既往(はい→6点)

  6. 金銭管理、薬の管理に助けが必要?(はい→10点)

  7. 抗うつ薬内服中か、または1週間に3日以上「何をするのもしんどい」と訴えるか(はい→6点)

Barnes DE, Beiser AS, Lee A, Langa KM, Koyama A, Preis SR, Neuhaus J, McCammon RJ, Yaffe K, Seshadri S, Haan MN, Weir DR. Development and validation of a brief dementia screening indicator for primary care. Alzheimers Dement. 2014 Nov;10(6):656-665.e1. doi: 10.1016/j.jalz.2013.11.006. Epub 2014 Feb 1. PMID: 24491321; PMCID: PMC4119094.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4119094/

 

※Rapid Assessment of Dementia Risk(RADaR):<60点で否定的。

  1. 65歳以上(65歳以上で5年毎に5点加算)

  2. これから3つの言葉をいいます(例:apple, table, and penny)。後で聞くので覚えていて下さい。

  3. 金銭管理(問題なし→0点、手助け必要〜困難→70点)

  4. 年々記憶想起の問題が起きていると思うか?(全く〜たまに→0点、頻繁〜とても頻繁→30点)

  5. 見当識(今は何月?→不正解で120点)(この部屋は何の部屋?→不正解で60点)

  6. 記憶想起(先程の3つの言葉を言って下さい →わからない言葉1つにつき50点)

Capuano AW, Shah RC, Blanche P, Wilson RS, Barnes LL, Bennett DA, Arvanitakis Z. Derivation and validation of the Rapid Assessment of Dementia Risk (RADaR) for older adults. PLoS One. 2022 Mar 17;17(3):e0265379. doi: 10.1371/journal.pone.0265379. PMID: 35299231; PMCID: PMC8929636.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8929636/

 

 

 

プライマリケアにおける課題

  • 年次健康診断(AWV)での認知機能評価は30%未満しか実施されていない。

  • 認知機能評価を行う障害:時間の制約、医師の知識不足

解決策

  • 短時間で実施可能な認知機能スクリーニングツールの活用。

  • レーニングプログラムの導入(例:Dementia Care Aware, KAERプログラム)

 

 

サミットでの提案と推奨事項

ワークフローの提案

  1. リスク評価ツールで認知機能低下の可能性が高い患者を特定。

  2. 高リスク患者に短時間スクリーニングを実施。

  3. ポジティブな結果が出た患者には3~4回の評価プロセスを設定:

    • 長時間の認知機能スクリーニング

    • 睡眠や精神的健康の評価

    • 必要に応じた専門医への紹介。

高齢者の検診における認知機能評価ワークフロー

ステークホルダーの活性化

  • ヘルスケアシステム:認知機能評価のコストや結果を明確化。

  • ヘルスケアチーム:スクリーニングや診断手順の教育とガイドラインの提供。

  • 患者と家族:認知機能低下が可逆的である可能性を伝え、早期診断の利点を啓発

将来の方向性

  • 電子的健康記録(EHR)を活用した自動化ツールの開発。

  • 多段階プロトコルを導入するための臨床試験の実施。

  • 医療提供者、患者、家族が協力する体制の構築。

 

 

 

 

読後感想

  • 認知症はプライマリ・ケアで60%が見逃されている」とは…かなり衝撃的だが、確かに外来で認知症を判断するのは難しい。

    • 金銭管理、日にちなどが一番最初に障害されやすい。支払いのときに事務が気づいて、診察室の事務が気づかない、なんてことはよくある。

    • 一人で来た場合は、どれだけ生活が破綻していようと、その場を取り繕われたら見抜けない。家族が来てくれれば生活の破綻具合とかが分かるのだが…

  • かといって、高齢者全員に「認知機能チェック」をするのは圧倒的に手間だ。65歳以上の高齢者では15%が認知症と言われているが、逆に言えば85%は正常だからだ。

    • 認知症のスクリーニングツールはよく聞くが、まずハイリスク群を同定するツールはあまり聞いたことがなかった。

    • Brief Dementia Screening Indicator(BDSI)や、Rapid Assessment of Dementia Risk(RADaR)は初めて聞いた。

    • 検診での認知機能スクリーニングの施行率は30%程度とのこと。高齢者検診で認知症評価をやっている自治体もあると聞く。毎回検診とかで導入できれば良いのだが。

  • 何よりも問題なのは、時間と人手かな…

認知症の初期症状をチェックしてみましょう | 伯耆町公式ウェブサイト  大友式認知症予測テスト www.houki-town.jp  
認知症ポータル/とりネット/鳥取県公式サイト 鳥取県公式ウェブサイト とりネット www.pref.tottori.lg.jp