いなか家庭医の勉強ノート

一人前の家庭医をめざして

HF_心不全をきたした中等度〜重度僧帽弁閉鎖不全症に、経カテーテル弁修復術を行うと、予後を改善するか?RESHAPE-HF2試験

Anker SD, Friede T, Bardeleben RS von, et al. Transcatheter Valve Repair in Heart Failure with Moderate to Severe Mitral Regurgitation. New England Journal of Medicine. 2024 Nov 13;391(19):1799–809.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2314328

 

【背景】

機能性僧房弁不全閉鎖症の多くは、薬物療法・心臓再同期療法を行っても症状が残っている。経カテーテル手術(MitraClip)は有益性のエビデンスが矛盾しているため、国際心不全ガイドラインでは強い推奨にはならない。

  • MITRA-FR(重症機能性/二次性僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClipによる経皮的修復術)試験では、経皮的修復術は内科的治療のみと比較して、1年後および2年後におけるあらゆる原因による死亡率や心不全による入院率の低下にはつながらないことが示された。

  • 対照的に、COAPT(機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者に対するMitraClip経皮的治療の心血管アウトカム評価)試験では、経カテーテル的僧帽弁修復術は24ヵ月の追跡期間中、内科的治療単独よりも心不全による入院率が低いだけでなく、あらゆる原因の死亡率も低いことが示された。

世界中で15万人以上の患者が経カテーテル的僧帽弁形成術を受けているが、有効性の決定的なエビデンスは、特に中等度または中等度から重度の機能的僧帽弁逆流を有する患者に対しては限られている。我々は、症候性心不全と機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する患者における経カテーテル的僧帽弁修復術の安全性と有効性に関する更なるエビデンスを提供するために無作為化試験を実施した。


【方法】
9ヵ国30施設の中等度から重度の機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者を対象とした無作為比較試験を行った。 患者は1:1の割合で、経カテーテル的僧帽弁形成術とガイドラインで推奨されている薬物療法(デバイス群)または薬物療法単独(対照群)のいずれかに割り付けられた。

主要エンドポイントは、

  1. 4ヵ月間の心不全による初回もしくは再発入院または心血管死の複合率

  2. 24ヵ月間の心不全による初回もしくは再発入院率

  3. Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire-Overall Summary(KCCQ-OS) scoreのベースラインから12ヵ月までの変化 ※

※7領域23項目を0−100でスコアリングした自記式質問票(症状の頻度、症状の負担感と安定性、身体的制限、社会的制限、QOL、自己効力感)。NYHAより正確でスコアが高いほど健康状態が良好。

【結果】

505例がRCT→250例がデバイス群に、255例が対照群。平均70±10歳、EF中央値31%、KCCQ-OSスコア中央値43点(40−59点が≒NYHAⅢ)。薬剤のベースは変わらず(tabel1)

①24ヵ月後の心不全による初回入院または再発入院または心血管死の発生率は、デバイス群で100人年あたり37.0イベント、対照群で58.9イベント(発生率比、0.64;95%信頼区間[CI]、0.48~0.85;P=0.002)。

心不全による初回または再発入院の発生率は、デバイス群で100人年あたり26.9イベント、対照群で46.6イベントだった(発生率比、0.59;95%信頼区間[CI]、0.42~0.82;P=0.002)。

KCCQ-OSスコアは、デバイス群で平均21.6±26.9点、対照群で8.0±24.5点上昇した(平均差、10.9点;95%CI、6.8~15.0;P<0.001)。(table2)

安全性(table3):デバイスに特異的な術中有害事象は4例(1.6%)に発生。血腫2例、心嚢液貯留1例、右心房穿孔による開胸術1例

【限界】

薬物療法のみを受けるよう割り当てられた患者の中には、最終的に経カテーテル僧帽弁修復術を受けた人もおり、観察された治療効果が薄れた可能性がある。死亡率の違いを示す設計ではなかった。

【結論】

中等度から重度の機能的僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全患者で薬物療法を受けた患者において、経カテーテル的僧帽弁修復術を追加することにより、薬物療法単独と比較して、24ヵ月後の心不全による初回入院または再発入院、心血管死の発生率が低く、12ヵ月後の健康状態も良好であった。
(アボット・ラボラトリーズによる資金提供あり)


【読後感想】

  • MitraClipを使えば、2年間で心不全入院または死亡率を0.6倍に減らせる。NNTを計算すると5.1人。

  • 症状はNYHA分類でいうと1段階減らせるイメージか。

  • まずまずといったところだが、気になる点が2つ。

  1. 複合アウトカムなので、実臨床でイメージしにくい。死亡率について有意差があったらわかりやすいのに。そう思って本文を読んでいくと、二次アウトカムに位置する死亡率には有意差が確認できなかった。うーむ。

  2. あと患者のbase。年齢が70代とかなり若い。大動脈弁狭窄症のTAVIとかは超高齢でも侵襲性が低いため、手術に耐えられない超高齢者でもやる意味が大きい。しかしMitraclipは超高齢者に有効かどうかはまだ不明だ。この年齢なら手術のほうがいいのでは、と思うのは私が非外科医・循環器内科医だからだろうか。

  • 以上より、私が患者にMitraclipを目的として紹介する機会は、少なくともプライマリ・ケア領域では現時点ではないだろう。日本の弁膜症ガイドラインでもまだ賛否両論のようだし。

ガイドラインシリーズ | 一般社団法人 日本循環器学会 www.j-circ.or.jp